若者や新参者が意見を言いやすい組織を作ろう!~『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』  山口 周 著➂~

本の紹介

おはようございます。あっぺいです。

今週は山口周さんの『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』をご紹介していきます。

山口さんの本は何冊か読んでいますが、教養、知的生産物をテーマにしたものが多く、私が仕事をする上でも非常に参考になっています。

今週ご紹介する『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』もその一つです。本書は「イノベーションを生み出すのは個人ではなく、組織である」ということを分かりやすく教えてくれます。

1日目は、「イノベーションとは何か」「日本が生み出してきたイノベーション」について羅生門、螺鈿細工、工学などの具体例をとりあげてご紹介しました。1日目のポイントは以下の3点です。

  • イノベーション=既存のものに新しい考えや技術を取り入れ、新たな価値を与えること
  • 「日本人がイノベーションを生み出すのが苦手」というのは誤解
  • 日本人は自国の魅力に気づかず、海外の劣化コピーを作りがちになる

2日目は「どのような経緯でイノベーションが生まれるか」についてリバプール、フィレンツェ、ダーウィン、戦後日本の自動車産業などの具体例を挙げてご紹介しました。

  • 異なる文化が交差する場所でイノベーションが生まれる
  • 様々な個性を持った人物が集まる場所でイノベーションが生まれる
  • 新参者と若者だけがパラダイムシフトを起こすことができる
  • 「既存の理論や技術」×「新参者の理論や技術」=イノベーション

さて、3日目の今日は「イノベーションを生み出せない危険な組織」についてご紹介します。

1日目の記事で、黒澤明監督の『羅生門』が制作会社の社長の理解されず、撮影終了後に関わったスタッフが左遷されたというエピソードをご紹介しました。

「個人の持つ高い創造性を組織が活かしきれていない」という課題を象徴する例として取り上げましたが、本日はそれ以上に危険な組織についての例をご紹介します。

大韓航空801便の事故

1997年8月6日、大韓航空の飛行機801便がアメリカ領グアムのグアム国際空港の滑走路手前に墜落するという事故が起こりました。

これはパイロットの人為的なミスが原因だったとされています。

空港から30キロ以上手前で、801便の機長は空港への「視認進入」を決断します。

「視認進入」とは計器を使わず、パイロットの目視によって着陸を行うことです。

しかし、この日のグアムは雨で、計器を使わず目視によって着陸するには危険すぎました。

誰もこの機長の決断を止めることができなかったのでしょうか?

残されたフライトレコーダーには次のような会話が残されていました。

副操縦士「もっと雨が降ってきそうだな、空港エリアは」

航空機関士「機長、気象レーダーはとても有用ですね」

これらの言葉に対し、機長は反応していません。

この二人は、直接的にはそう表現していませんが、機長に対して「雨の中での『視認進入』は危険すぎる。計器を使うべきだ」という思いがあったのでしょう。

しかし、この二人の思いは機長に届くことがなく、801便はグアム国際空港の1キロ手前の丘陵に墜落してしまいます。

この事故で乗客乗員254名のうち、228名が亡くなっています。

事故が頻発する大韓航空

1970年代から、1990年後半にかけて、大韓航空は事故の多さで有名でした。

飛行機が墜落して死亡する確率は、0.0009%です。アメリカ国内で自動車事故で死亡する確率が0.03%ですから、本来飛行機は非常に安全な乗り物なのです。

しかし、この時期の大韓航空は他の航空会社の15~20倍の程度も墜落による死亡リスクが高かったのです。

では、なぜ大韓航空の飛行機だけが頻繁に墜落したのでしょうか。

墜落の原因の大半は人為ミス

原因不明の場合を除けば、航空事故の半分はパイロットの操縦ミスによって起こっています。1970年代から1990年代に立て続けに起こった大韓航空の事故も、ほとんどがパイロットによるミスでした。

そもそも、飛行機(旅客機)のコクピットには操縦席が2つあります。

それは、二人のパイロットの技量、判断力、注意力が統合されることで、安全性を確保するためです。もちろん、パイロットは皆優秀で、普段から訓練も受けています。

では、なぜ訓練されたパイロットが2人もいて、そんな簡単に操縦ミスをしてしまうのでしょうか。

片方が明らかなミスを犯しているにもかかわらず、片方がそれに気づかない。あるいは、機長の命令を副操縦士が聞き間違えたり勘違いしたりして誤った対応をしてしまう。あるいは、機長か副操縦士が 明らかなリスクの存在に気づいているのに、 それを相手に伝えない。 そして、大韓航空機で続けざまに発生した事故の原因として委員会から指摘されたのが、この最後の「片方が明らかなリスクの存在に気づいているにもかかわらず、それをもう一方に伝えていない」ケースでしょう。

出典:『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』  山口 周 著

大韓航空801便の事故も同様です。

副操縦士と航空機関士は機長が「視認進入」を決断した際に、明らかなミスだと気づいていたはずです。

しかし、それを直接的に機長に伝えることなく「雨が降ってくる」「気象レーダーは有用だ」といった独り言で終わってしまっています。

なぜ、この二人は直接機長に「雨の中での『視認進入』は危険すぎる。計器を使うべきだ」と伝えることができなかったのでしょうか。

ここで、航空事故に関する「ある傾向」を知っておく必要があります。

通常、旅客機では機長と副操縦士が職務を分担してフライトします。もちろん、一般的には操縦技術や状況判断能力の面で、機長のほうが副操縦士より格段に優れています。しかし、過去の航空機事故の統計分析の結果は、機長自身が操縦桿を握っているときのほうが、はるかに墜落事故が起こりやすいことを示しているのです。

出典:同書

これは我々にも当てはまります。

自分より経験の少ない若手と仕事をするときは「彼はまだ経験が浅いからミスをするかもしれない」という気持ちになりませんか?ミスが起こることを想定しているため、実際にミスが起こってもカバーしてあげることができます。

しかし、自分より経験豊富で年齢や立場が高い人と仕事をするときは「きっとうまくやってくれるだろう」という気持ちになってしまいませんか?また、その人がミスをしたことに気づいても、なかなかそのことを指摘できないのではないでしょうか。

大韓航空801便の事故原因を調査して委員会の結論はこうです。

「機長の判断ミスに副操縦士と航空機関士は異議を唱えられなかった。目上の人間に異議を唱えるのは、アメリカ人には簡単でも韓国人にはとても難しいことであった」

これは韓国人に限ったことではありません。

韓国同様に儒教の影響を受けた日本でも同様に「目上の人間に反論できない」という課題があります。

上司に対して異論を唱えられない日本の組織

ホフステードの研究

1967年から1973年にかけて、オランダの心理学者であるヘールト・ホフステードは権力格差指標(上司に反対しにくい度合い)を定義し、「管理職と部下の仕事の仕方やコミュニケーションが大きく異なると、それが知的生産に大きく影響を与える」ということを発見しました。

先進7カ国の権力格差指標でで、日本はフランス(68)に次ぐ2番目に高い54となっています。

少し古いデータですが、このような指摘があります。

ホフステードは、権力格差指標の高い国では「 上司に異論を唱えることを尻込みしている社員の様子がしばしば観察されており」「権力格差の大きい国では、(中略) 部下にとって上司は近づきがたく、 面と向かって反対意見を述べることは、 ほとんどありえない」と同書の中で指摘しています。

出典:同書

どうでしょうか。現在にも通ずる指摘ですよね。

昔に比べれば上司も近寄りやすい存在になりましたが、それでも面と向かって反対意見を述べることに心理的抵抗を感じる人は多いはずです。

実際、私も自分が上司になって部下を持つようになってから、「誰からも反論がないけど大丈夫だろうか?」と心配になることが多々ありました。

現在では「チーム内では立場に関係く意見を言うこと。意見への反論は人間性を否定するものではない」という意識をスタッフと共有しているため、この心配は解消されました。この話はまたどこか記事にします。

ホフステードは次のような指摘もしています。

ホフステードは、権力格差の大きい日本のような国では、人々の間に不平等があることはむしろ望ましいと考えられており、権力弱者が支配者に依存する傾向が強く、中央集権化が進むと指摘しています。たしかに日本では、社会や経済が停滞状況に陥ると「リーダー待望論」が噴出するばかりで「自分は何をできるか」という論調にはなかなかなりません。

出典:同書

この傾向は肌で感じます。

自分ではなく、他の誰かにやってもらう、という感覚が強いです。

最近は「出世したくない若者」が増えていますが、この傾向の典型例だと思われます。

自分は組織の底辺でいいので、権限や責任を与えられたくない。

蚊帳の外から批判することはあっても、責任をとらない立場にはなりなくない、という心理の表れです。

このホフステードの指摘をふまえ、筆者の山口さんはこう指摘します。

われわれ日本人は、「権威」と「リーダーシップ」を一体のものとして認識してしまうという奇妙な性癖を持っています。しかし、リーダーシップは本来、権威によって生まれるものではありません。それは責任意識によって生まれるものです。日本企業の組織診断を行っていると「自分には権限がないので」ということをよく口にする管理職がいるのですが、ではその人は権限を手に入れたら何かを始めるのでしょうか? 僕はそうは思いません。今日、自分の判断で動き出さない人は、明日、権力を手に入れたとしてもやはり動き出さないでしょう。

出典:同書

丸山眞男の指摘

この考えは日本の政治学者である丸山眞男の指摘に通じます。

丸山眞男は「日本は江戸まで続いた身分階級の影響が残り、『である』と『する』を混同している」と指摘しました。

簡単に言うと、「武士は武士『である』から偉い」という考えに慣れすぎていて、「武士として何を『する』から偉いのか」という視点を日本人は持っていない、という指摘です。

この指摘は半世紀以上前にされましたが、現在でも解消されていない日本人の奇妙な考え方です。

「社長はなぜ給料が高いのか?」と言う問いに対して「社長だから」と反射的に答えてしまうのはその典型です。

実際、社長は「会社が倒産した時のリスクを抱え、従業員が働きやすい環境を作りながら会社の利益を資本家に還元し続ける」から偉いのです。社長が何を「する」のかが重要なのであって、社長が社長「である」ことから偉さは発生しません。

しかし、我々日本人は、無意識的に権威とリーダーシップをセットとして考えてしまいます。

日本が抱える矛盾

2日目の記事でもご紹介しましたが、「若者」か「新参者」にしかパラダイムシフト(=イノベーション)を起こすことはできません。

クーンは日本語で言うところの「若造」か「新参者」によってこそイノベーションは成し遂げられる、と指摘しているわけです。しかし、権力格差の大きい日本において「若造」と「新参者」は、最も声を圧殺されがちな人々と言えます。 ここに日本が抱えている「大矛盾」があります。 これらの事実、つまり「日本人は、目上の人に対して意見したり反論したりするのに抵抗を感じやすい」という事実と、「多くのイノベーションは組織内の若手や新参者によって主導されてきた」という事実は、日本人が組織的なイノベーションにはそもそも向いていないということを示唆しています。

出典:同書

この本のテーマがここに集約されています。

1日目の記事ご紹介した、日本の組織が抱える「個人の持つ高い創造性を組織が活かしきれていない」という課題の解決策もここにあります。

若造と新参者が意見を言いやすい組織を作ることで、個人の持つ高い創造性を活かすことができます。

また、若造や新参者が意見を言いにくい組織を作ってしまうと、大韓航空801便の事故のように、上司のミスを指摘できずに大失敗につながりかねません。

まとめ

本日の記事をまとめます。本日は「大韓航空801便の事故」と、「オランダの心理学者であるヘールト・ホフステードの研究」を取り上げて「権力者に意見を言いづらい環境では生産性が落ち、重大なミスが発生しやすい」という事例をご紹介しました。ポイントは以下の3点です。

  • 日本や韓国には、目上の人間に反論をしにくい、という文化的背景がある
  • 日本や韓国の組織では、部下が上司のミスを指摘できないため、それが損失に直結してしまう
  • 日本や韓国の組織では、若者や新参者が意見を言いにくいため、イノベーションが生まれない

もちろん、これは一般論であり、現在では多少解消されている部分もあるでしょう。

しかし、それでも儒教の影響を受けた日本や韓国では、それ以外の国の人からすれば不自然なほどに「目上の人間が権威を持つ」という状況になっています。

私も学生の頃に「お前は後輩なんだから、先輩の言うことを聞け」という理不尽を当たり前のように受け入れてきましたが、今考えると「なぜ1年早く生まれただけで、そんなに権威を持てるのか」と違和感を覚えます。

まず、我々が抱える組織の問題点をしっかり認識しましょう。

明日はJ・F・ケネディを例に、「イノベーションを生み出す組織作り」についてご紹介します。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。

みなさんの世界が、また少し美しくなりますように。

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