オランダの飛躍を知ろう!~『世界システム論講義 ──ヨーロッパと近代世界 』川北稔 著④~

本の紹介

おはようございます。あっぺいです。

今週の月曜日から川北稔さんの『世界システム論講義 ──ヨーロッパと近代世界 』をご紹介しています。

「世界がどうして今の状態になっているのか」を長期的かつ広範囲の視点から考察した名著です。

この本を読むことで、世界の現状を俯瞰で捉えることができます。

1日目の記事では「世界システム論」についてご紹介しました。

世界を「国の集合体」としてではなく「一つの生物」として捉える考え方を「世界システム論」と言います。

すべての国が「工業化された豊かな国」というゴールに向かって用意された自分のレーンを走っているのではなく、たった一本のレーンを各国が押し合いへし合いながら走るため、国によって格差が生まれてしまいます。

2日目は「なぜ現在の世界でヨーロッパが中心となったのか」についてご紹介しました。

15世紀まではヨーロッパシステムよりも中華システムの方が優位でした。しかし、中国は巨大な帝国を維持するためにエネルギーを内政に向ける必要があり、侵略目的で海外に進出することはしませんでした。

それに対して、ヨーロッパ各国は他国との競争のために資源を求めて海外に進出します。結果としてアメリカを発見し、植民地化することで、莫大な資源をアメリカから供給することができたのです。

アメリカから資源を収奪し続け、競争を続けたヨーロッパ各国は技術的にも経済的にも成長し、世界の中核となったのです。

3日目は、大航海時代のポルトガルとスペインがアメリカに進出していく過程をご紹介しました。

最初に海外進出をしたポルトガルの目的はあくまでキリスト教の布教と香料の獲得でした。そのため、アジアの交易ネットワークに参入し、安く香料を仕入れてヨーロッパに高く売るという商業的な成功を収めたものの、その後衰退していきます。

ポルトガルより出遅れたものの、黄金郷を求めてスペインも海外に進出します。アメリカ大陸を発見したスペインはヨーロッパからサトウキビの苗を持ち込み、アメリカで大量生産することに成功します。また、銀山を開発し、大量の銀をスペインに持ち込みました。

しかし、それらの利潤はスペイン王室で浪費され、ポルトガルを併合するものの、その後衰退していきます。

4日目の今日はそのスペインの衰退後に隆盛を極めた最初のヘゲモニー国家であるオランダについてご紹介します。

ヘゲモニー国家

十六世紀に成立し、今日、地球全体を覆っている近代世界システムの歴史上、その中核地域のなかでも、圧倒的に強力となって他の諸国を睥睨するようになった国を、「ヘゲモニー国家」と呼ぶ。その国の生産物が、他の中核諸国においても、十分な競争力をもつほどになった国家のことである。近代世界システムの全史において、ヘゲモニー国家は三つしか存在しなかったと考えられる。第二次世界大戦後からヴェトナム戦争までのアメリカ、十九世紀中ごろ、ヴィクトリア女王のもとで「イギリスの平和(パクス・ブリタニカ)」を確立した時期のイギリスのほか、十七世紀中ごろのオランダがそれである。

出典:『世界システム論講義 ──ヨーロッパと近代世界 』川北稔 著

前回の記事ご紹介したポルトガルとスペインがヘゲモニー国家になり得なかった理由がここにあります。

他の中核諸国に十分な競争力を持つ生産物を有している国家 = ヘゲモニー国家

ポルトガルはアジアのマーケットを介して利潤を得ましたが、生産物を持っていませんでした。

スペインは植民地から大量の銀を生産しましたが、自国で消費してしまいました。

しかし、その後に台頭してきたオランダにはそれがありました。

オランダがヘゲモニー国家となるまで

ヘゲモニーは、まず第一次産業の生産活動から始まる。十七世紀のオランダは、もっぱら商業国というイメージが強いが、その実態は農業の「黄金時代」であり、また、ヨーロッパ最大の漁業国でもあった。オランダは、たしかに食糧を自給することはなく、東ヨーロッパやイギリスからの大量の穀物輸入に頼っていたが、他方では、干拓がすすみ、付加価値の高い近郊型農業──染料をはじめとする工業用原料や野菜、 花卉などの栽培に集中する──を発展させたのである。北海のニシン漁を中心とする漁業は、あまりにも強力で、イギリス漁業はまったく太刀打ちできなかった。

出典:同書

世界システムのヘゲモニーは三段階に成長していきます。

生産→商業→金融とその力が波及していきます。崩壊する時もその順番に崩壊していきます。

オランダはまず漁業と商業で圧倒的な優位に立ちました。そして、そこで得た資金をもとに世界の金融センターになっていきます。では、その過程をご説明します。

オランダの生産力(漁業・造船業)

オランダの造船技術は非常に高く、漁船も貿易船も非常に優れたものを作りました。

漁船ではハリング・バイスと言う船上でニシンを塩漬け加工できる漁船を製造します。この船が製造されたことで、北海のニシン漁を中心とする漁業はオランダの独壇場となります。

貿易船ではフライト船が作られます。この船は少人数で大量の積み荷を運ぶことができたため、バルト海貿易で重宝されます。当時のオランダのライバルであったイギリスは、オランダの1/10の船舶しかバルト海で動かすことができませんでした。

オランダの商業力

このバルト海は西ヨーロッパ(世界の中核)と東ヨーロッパ(従属地域=周辺国)を結ぶ重要な幹線でした。東ヨーロッパからは穀物や木材が多く供給されます。

木材は造船における重要資材です。

  1. 東ヨーロッパから良い木材が供給される
  2. 良い木材を使って優れた貿易船を作る
  3. 優れた貿易船がバルト海を往復し、良い木材が供給される  

このような好循環により、バルト海はオランダの独壇場になりました。

バルト海貿易をオランダが制したことで莫大な資本がオランダに流入します

オランダの金融力

この資本がアムステルダム(オランダの首都)に集まり、レヘントと呼ばれる商人貴族が生まれました。こうしてアムステルダムは世界中の資金が集まる場所となり、金利の最も低い金融市場となります。商人だけでなく、ヨーロッパ各国の政府がアムステルダムで資金を借りました。

これが生産(漁業・造船)から始まったオランダの飛躍が金融にまで波及していく過程です。

それだけではありません。

世界商業と金融の中心となったアムステルダムは、必然的に情報センターともなった。安価な資金と十分な情報からして、海上保険の掛け金率も、アムステルダムで圧倒的に低くなり、外国船でさえ、ここで保険を掛けるようになった。逆にいえば、金融・保険業などの「みえざる収益」の点でも、オランダは圧倒的な力をもつようになったのである。

出典:同書

世界の中心となった金融市場を利用し、保険業までがオランダが独占するようになりました。

このようにして、オランダはヘゲモニー国家となったのです。

オランダの衰退

しかし、栄華を誇ったオランダも衰退します。

これは後にヘゲモニー国家となるイギリス・アメリカにも共通しています。

その要因の一つは、国家がヘゲモニー化することで国民の生活水準が上昇し、それに伴って労働者の賃金が上昇することで、生産力が落ちるからです。

ヘゲモニー国家にはなりませんでしたが、かつての日本でも同じ現象がありました。

高度経済成長期の日本では、都心で大量の工場が建設され、大量生産が可能になりました。そこで働く労働者は、農村に仕事がなかった地方の若者でした。彼らを上京させ、低賃金で働かせることで企業は莫大な利潤を生み出しました。しかし、結果として日本は成長し、都心と農村の物価の格差が縮小し、日本全体の物価が平準化したことで、衰退を道へと進むことになります。金融バブルが崩壊した後の日本は長らく経済成長をせず、「失われた20年」と呼ばれる不況が続きました。

話をオランダに戻しましょう。

国家の繁栄が生産→商業→金融とその力が波及していくのと同様に、崩壊する時もその順番に崩壊していきます。生産力の落ちたオランダは、後に商業、金融の側面でも他国に追い抜かれていくことになります。

まとめ

本日の内容をまとめます。

オランダは卓越した造船技術を持ち、優れた漁船で北海のニシン漁を独占します。また、その造船技術で貿易船を作り、バルト海貿易も独占します。それによって集まった資金がアムステルダムに流れ込み、アムステルダムが世界の金融センターとなります。結果としてオランダがヘゲモニー国家として君臨することになります。

しかし、国家がヘゲモニー化することで、労働者の賃金が上昇し、生産力が低下し、その影響が商業、金融まで波及し、少しずつ衰退していきます。

まさに盛者必衰の理ですね…

世界史を知らなかった私にとっては、「オランダ=サッカー強い・風車・チューリップ」という認識しかありませんでした。

まさか世界の中核となっていた時期があったとは…

明日はイギリスについてご紹介します。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。

みなさんの世界が、また少し美しくなりますように。

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